History

原音への追求は、
町工場から始まった。

きっかけは、娘のひとこと

2012年のある日、娘をバイオリン教室に送るクルマの中で、娘がふと口にした「クルマの中だと、バイオリンの音が聞こえにくい」という言葉。それがすべての始まりでした。当時、娘が車内で聴いていたバイオリンの教則CDを、もっと良い音で聴かせるにはどうすれば良いのか。ショップで相談したところ、スピーカーの交換だけでは無理で、本格的に音質を改善したければ100万円くらいのオーディオセットが必要だと言われました。そんな大金は出せないので、それなら自分でつくってみようと決めたのです。

常識はずれの発想の理由

私は音楽は好きでしたが、特別オーディオに詳しかったわけではありません。その代わり、精密加工の工場を経営していましたから、金属に関する知識は持っていました。電気信号を金属に通せば、金属の抵抗値によって出力が変わる。それならスピーカーケーブルの手前に金属素子を置けば、音質を変えられるかも知れない。私を突き動かしていたのは、そんな単純な発想でした。何のことはない、当時の私はスピーカーケーブルに何かをかませると音質が低下するということさえ知りませんでした。でも、そんな私だから、これほど無謀な挑戦ができたのだと思います。

敵はバイオリンとピアノ

その日から、カーオーディオを外して工場の作業場に持ち込み、スピーカーケーブルにさまざまな素子をつないで原音の再現性を試す日々が始まりました。音源に選んだのはクラシックのCD。楽器一つひとつの音がクリアに聞こえるように、素子の種類や不純物の含有率を変えてデータを取り、チューニングを繰り返しました。最も難しかったのはバイオリンとピアノです。カーオーディオのスピーカーでバイオリンのビブラートを再現するには、どこにピークを持っていけばよいのか。音域が広いピアノの場合、高音になると音が濁ってしまうという現象をどう抑えるか。実際に娘や知人にも音を聴いてもらい、休日も返上して開発に取り組みました。

誰も見たことのない
デザイン

3年間の試行錯誤の末に、ようやく試作品が完成し、知人に紹介された有名なオーディオマニアに聴いてもらいました。その方から「とても音がクリアになるね。面白い」と言っていただき、テンションが上ったことを覚えています。その方からは、デザインに関するアドバイスをいただきました。せっかく新しいコンセプトの商品なのだから、もっとインパクトあるデザインにしては? その言葉が、私のものづくり魂に火を付けました。自らステンレスを削り出し、誰が見てもオーディオアクセサリーとは思わないデザインにしよう。火力発電所向け部品の精密加工技術が、ここで活きるとは思いませんでしたが。

不可能と言われた
特許取得

2018年には大学の研究室でデータを取り、特許取得をめざしました。最も苦労したのは、音が良くなることの客観的評価。大学教授からは「音の良さの数値化は不可能」と言われましたが、弁理士と相談してさまざまな官能評価のデータを集め、国際特許(PCT)の出願にこぎつけました。

良い音への
探求は終わらない

近年、オーディオショップにデモ機を置いていただいてから、Sound elementは少しずつオーディオ好きの間で認知されはじめました。2019年には「オーディオアクセサリー銘機賞特別賞」と「名古屋市工業技術グランプリ奨励賞」を受賞。さらに、2021年にも「アクセサリー名機賞」も受賞しております。実際にご購入いただいた方からは「アコースティックなサウンドがより豊かになりました」「波形がきれいになったのが分かるくらい、全体のぼやけがなくなりました」などの嬉しいフィードバックをいただいています。でも一つ残念なのは、娘の耳が肥えて、よほどの音でないと満足してくれなくなってきたこと。ですから、まだまだ良い音への探求は終わりそうにありません。

KaMS 代表取締役社長貝沼直人